「最近、かつやに行っても以前ほど並ばなくなった」「店内がガラガラで心配」といった声がSNSや一部のメディアで報じられています。
かつて「最強のコスパ」を誇ったかつやに何が起きているのか。店舗数で首位を奪った「松のや」との比較を交えながら、その実態を解き明かします。
かつやの客離れは進んでいる?客数の推移と実態
「客が減っている」という噂は、残念ながら数字上の事実です。かつやの既存店データからは、明確な客数の減少傾向が読み取れます。
- 客数の前年割れ: 2024年後半から2025年にかけて、既存店の客数は前年比95%〜98%程度で推移する月が目立っています。
- 「行列」の消失: かつてはランチタイムの行列が当たり前でしたが、現在はスムーズに入店できる店舗が増えており、これが「客離れ」という印象を強めています。
- 競合への流出: 物価高の中で、より低価格な「松のや」や、他の牛丼チェーンの低価格メニューへ顧客が流れている側面は否定できません。
「客が離れているなら経営が危ないのか?」というと、実はそうではありません。
かつやは松のやに負けたのか?店舗数逆転のからくり
「松のや」がとんかつチェーンの店舗数で首位に躍り出たというニュースは業界に衝撃を与えましたが、これには「からくり」があります。
- 店舗数の逆転: 松のやは2025年頃に店舗数でかつやを追い抜きましたが、その中身はかつやの「単独店」とは性質が異なります。※店舗数はほぼ500店同士。
- 松屋との「併設店」戦略: 松のやの店舗数急増の正体は、牛丼の「松屋」の中に「松のや」の設備を入れた併設店舗です。ゼロから店を作るかつやに比べ、圧倒的なスピードで「看板の数」を増やすことに成功しました。
- 立地戦略の違い: かつやはロードサイドの単独店が多く、松のやは駅前の松屋併設店が多いという特徴があります。数では負けていても、1店舗あたりの「とんかつ専門店としての存在感」は依然としてかつやに分があります。
「利便性なら松のや、満足感ならかつや」という住み分けができており、店舗数の数字だけで「かつやが負けた」と判断するのは早計と言えるでしょう。
かつやにしかない強みとは?
客数が減ってもなお、多くのファンが「かつやじゃなきゃダメだ」と言うのには理由があります。
- 中毒性のある限定メニュー: 「全力飯」シリーズに代表される、見た目のインパクトとボリュームを兼ね備えた限定メニューは、SNSでの拡散力も高く、熱狂的なファンを呼び寄せています。
- 無限ループの100円割引券: 会計時にもらえる「100円割引券」は、かつや最大の武器です。これが「次回もかつやに行こう」という強力な再訪動機を生み出し、高いリピート率を支えています。かつやアプリでも使用可能。
- 専門店としてのプライド: 松のやが「定食屋」に近い感覚なのに対し、かつやは「揚げたてを提供する専門店」というブランドイメージを守り続けています。
単純な支払額の低さ(安さ)だけで比較すると、現在は松のやに軍配が上がることが多いです。
かつやは「安さ」よりも「魅力的な体験」で客を呼ぶ戦略が際立っています。
揚げ物の種類の豊富さや、サイドメニュー(豚汁など)のクオリティにファンがついており、「多少高くてもかつやが良い」と思わせるブランド力があります。
かつやの客数は減っているが、売上は維持・拡大傾向
2025年1月〜12月の実績(前年同月比)を見ると、以下のような「客数減・単価増・売上維持」の構造が鮮明です。
| 期間 | 売上高 | 客数(客離れの実態) | 客単価(値上げの効果) |
| 2025年 上期平均 | 104.3% | 99.5% | 104.7% |
| 2025年 下期平均 | 101.6% | 98.0% | 103.6% |
| 2025年 通期平均 | 102.9% | 98.8% | 104.1% |
「客が減っているのに経営が安定している」という不思議な現象は、戦略的な価格設定によって実現されています。
- 既存店売上のプラス維持: 2025年度のデータでは、客数が前年割れしていても、売上高は前年比100〜104%程度と、むしろ成長している月が多く見られます。
- 客単価の大幅な上昇: 相次ぐ値上げにより、一人あたりの支払額(客単価)が上昇しました。100人の客が500円払うよりも、90人の客が600円払う方が売上が上がるという計算を、かつやは実証しています。
- 収益性の改善: 無理な低価格競争から脱却し、原材料費や人件費の高騰を適切に価格転嫁することで、企業としての健全な利益率を確保しています。
- テイクアウト・デリバリー比率の定着:コロナ禍で急増したデリバリー需要ですが、2025年〜2026年にかけても「一過性のブーム」に終わらず、生活の一部として完全に定着しています。
カツ丼は「少し時間が経って味が染みた方が美味しい」というファンも多く、揚げたてをその場で食べる定食に比べて、デリバリーでの満足度が下がりにくいメニューです。
「店内の客足」という目に見える指標だけでは、かつやの本当の勢いは測れなくなっています。
今の「かつや」は、「店に来る客」を大切にしつつ、「家で食べる客」から高い単価を回収するハイブリッドモデルへ移行していると言えます。
かつやの値上げの歴史
看板メニューである「カツ丼(梅)」の税抜き価格の推移を見ると、値上げの頻度が見えてきます。
- 2023年6月: 520円 → 540円
- 2024年3月: 540円 → 560円
- 2024年10月: 560円 → 590円
- 2025年3月: 一部商品を値上げ(カツ丼・梅は590円で据え置き)
- 2025年10月: 590円 → 620円(税込682円)
このように、1年以内に何度も改定が行われており、2025年10月の値上げも、前回の3月の改定からわずか約7ヶ月後というスパンで実施されています。
2025年は「令和の米騒動」以降、お米の仕入れ価格が大幅に上がった時期でした。とんかつ定食にとって米は生命線であるため、その影響を反映せざるを得なかったという背景があります。
一部で閉店や見直しがあっても、全体としてはなお出店を続けており、現時点では『縮小局面』というより、採算を見ながら再配置を進めている段階と見る方が自然です。
まとめ:お客さんが少なく見えても利益を上げている店舗は多い
「店内が空いているから失敗」というのは、現代の飲食経営においては古い見方かもしれません。
コロナ禍以降、「出前館」や「Uber Eats」、そして「ロケットナウ」といったデリバリープラットフォームの参入・発達により、店舗外での注文が激増しました。
▶ロケットナウの参入で日本のデリバリーが変わる?割引・改定ラッシュ
店内のテーブルは空いていても、デリバリーの注文をさばくためにキッチンはフル稼働している、というのが現代の勝ち組店舗の共通点と言えます。
デリバリーは店頭より価格設定が高いことが多い一方で、プラットフォーム手数料や包装費もかかるため、必ずしも店内飲食より利益率が高いとは限りません。ただ、客数が減っても売上を下支えする役割は大きくなっています。
かつやは今、「安さで客を集めるフェーズ」から、「価値(満足度・利便性)で利益を最大化するフェーズ」へと進化しています。客数の減少は、その進化の過程で起きた「ターゲットの選別」の結果と言えるのかもしれません。
参考:


