制度 速報

政府は大丈夫と言ったのになぜ?ナフサ不足でシンナーが消え、塗装屋が潰れる理由とは

ポテトチップスを食べる女の子

2026年5月、日本国内では「ナフサ(粗製ガソリン)不足」による異常事態が続いています。

政府は「在庫は確保されている」と繰り返しますが、現場ではカルビーのポテトチップスが白黒パッケージになり、塗装業者がシンナー不足・塗料の値上げで廃業に追い込まれるなど、深刻な乖離が生じています。

なぜ、統計上の数字と私たちの生活感覚がここまでズレているのか、その裏側にある構造的な問題を探ります。


なぜ政府は大丈夫といったのにナフサ不足の影響が出ているのか?

2026年4月の段階で経済産業省は、原油や石油製品について、代替調達や備蓄石油の放出により「我が国全体として必要となる量」は確保できていると説明しています。

一方で、同じ会見の中で「一部で供給の偏りや流通の目詰まりが生じている」とも認めています。

  • 在庫の「質」と「偏り」: 政府が公表する備蓄データには、石油元売り会社が自社の生産ラインを維持するために抱え込んでいる「自衛用在庫」も含まれます。市場に自由に流通する「フリー在庫」は極めて少なく、末端の業者が買おうとしても手に入らない「在庫はあるが、買えるものはない」という現象が起きています。
  • 川中・川下が在庫を抱え込む:「来月入るか分からない」と言われた卸は、普通に考えれば一気に出荷せず、重要顧客用に在庫を残します。その結果として店頭や中小業者には「在庫切れ」として現れます。経産省が挙げた「4月は通常供給なのに、5月未定と聞いて4月出荷を半減した」という例は、まさにこの動きです。
  • 補助金では解決しにくい「原料」の問題: 現在、ガソリン価格抑制のために多額の補助金が投入されていますが、ナフサは補助金の対象外です。燃料としてのガソリンは政策対応の対象になりやすい一方、化学品原料のナフサは川中・川下の目詰まりが起きると、末端の塗装業者や包装資材メーカーに一気にしわ寄せが出ます。
  • 特定用途向けナフサ由来原料の不足: 特定用途向けのナフサ由来原料(ライトナフサなど)は、その多くを中東からの輸入に頼っています。ナフサ全体の量は確保されていても、特定の用途に必要な種類が足りないため、個別の業界で悲鳴が上がっています。

6月になってもナフサが「物理的にゼロ」になることはないでしょうが、この「目詰まり」が解消されない限り、私たちの生活圏からはカラーの袋や手頃な工事価格が消え続けるという、皮肉な状況が続くと思われます。


ナフサ不足影響の事例

Calbeeの白黒ポテトチップス

画像出典:カルビー株式会社

  • シンナーの消失と価格高騰:シンナーは成分のほぼ100%がナフサ由来の溶剤です。ガソリンのように補助金で守られていないため、原材料価格がダイレクトに反映され、1缶4,000円程度だったものが15,000円を超えるような異常事態になっています。
  • カルビーの白黒パッケージは、分かりやすい警告サイン:中東情勢を受けた原材料調達の不安定化により、ポテトチップスやかっぱえびせんなど14商品のパッケージを順次、白黒の2色に変更する方針と報じられています。多色印刷には複数のインキや溶剤が必要になります。
  • 塗装屋の倒産急増:塗装業界は小規模な個人事業主が多く、材料費の50〜80%規模の高騰を顧客に転嫁できていません。さらに、金を出してもシンナーが入荷せず「現場が動かせない」という機会損失が重なり、23年ぶりの高水準で倒産が増えています。

政府が企業にヒアリングするのはどんな意味を持つ?

政府のヒアリングは「本当に全国的な不足なのか、それとも一部の企業・工程・流通で止まっているのか」を見極める作業と言えます。

  • ヒアリングの事例:5月12日、農水省はカルビーに対してパッケージ変更に関するヒアリングを行いました。以前にも同様の事態に陥ったTOTOに対し、政府が聞き取りを行った直後に一部製品の販売が再開されたケースがあります。
  • どんなことをヒアリングしているのか? :サプライチェーンの「目詰まり」箇所の特定、 原材料がどの商社、あるいはどの加工段階で止まっているのかを精査します。
  • 真の在庫量と調達コストの確認: 公的な統計には現れない、現場レベルでの「明日使える分」の量と、実際に取引されている異常な高値の実態を把握します。

ヒアリングの狙いは国民の不安払拭(パニック防止)が大きいでしょう。

ポテトチップスやトイレといった象徴的な商品の供給を回復させることで、社会全体に広がる「物不足感」を視覚的に解消し、政府が事態をコントロールしていると印象づける狙いがあると言えます。


ナフサはこれからどうなる?イラン情勢と供給の関係

  • 一時停戦でも解消されない「コストの壁」: 中東情勢が一時的な停戦を迎えても、ホルムズ海峡周辺の「危険地帯指定」が解除されない限り、タンカーの保険料(戦時保険)は高額なままです。輸送距離が長い米国産などへの切り替えも進んでいますが、運賃の上乗せにより、ナフサ価格は以前の1.5倍から2倍の水準で高止まりするでしょう。
  • 「白黒パッケージ」と「製品簡素化」の定着: ナフサを原料とするプラスチックやインクのコスト高騰は数年単位で続くと見られています。たとえ供給が戻っても、企業は利益確保のために「インク節約」や「包装の簡素化」を標準仕様として定着させていく可能性が高いです。
  • 備蓄制度の脆弱性という教訓: 日本の石油備蓄制度はガソリンなどの「燃料」が中心で、ナフサのような「化学製品の原料」については法的義務がありません。今回のショックにより、燃料さえあれば良いというこれまでの備蓄戦略の見直しが迫られることになるでしょう。

イラン情勢が落ち着くのは最低条件ですが、たとえ明日完全に平和になったとしても、崩れたサプライチェーンと高騰した物流費が元に戻るには、2026年いっぱい、あるいはそれ以上の時間がかかるというのが現実的な見方です。


まとめ :歪な供給体制

ナフサショックは単なる中東情勢の影響だけでなく、日本の産業構造と備蓄政策の弱点を浮き彫りにしました。

今回のナフサ不足によってパッケージの色が消えたことは、日本の製造業が直面している「静かなる危機」を象徴しているのかもしれません。

今後の見通しとしては、「モノはあるが、めちゃくちゃ高い」、あるいは「特定のブランド品だけは買えるが、ノーブランド品や建築資材は入ってこない」という、歪な供給体制がしばらく続くと考えられます。

参考

経済産業省:赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要

経産省PDF:シンナー等の安定供給確保

ロイター:官房副長官、インク材料のナフサ「必要量は確保」

サカタインクス公式:中東情勢を踏まえた製品供給への影響

東京商工リサーチ:塗装工事業の倒産143件、23年ぶり高水準

-制度, 速報
-