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ウナギ養殖の現在、養殖が難しい・おいしくないは過去の話?性別まで変える技術とは

泳ぐウナギ

日本の食文化に欠かせないウナギですが、近年は天然稚魚の歴史的な不漁や価格の高騰が深刻な問題となっています。

しかし今、日本のウナギ養殖技術は異次元の進化を遂げています。「養殖ウナギは味が落ちる」「完全養殖はコストが高すぎて実用化できない」と言われたのは過去の話です。

2016年度には人工シラスウナギ1尾あたり約4万円だった種苗生産コストが、最新技術によって約1,800円にまで下がり、完全養殖ウナギの商業化が現実味を帯びてきました。

さらに、味や食感を劇的に向上させるためにウナギの性別をコントロールする驚きの技術まで登場しました。今回は、日本の食卓と世界のウナギ市場を激変させる最新の養殖技術とその未来について解説します。


ウナギ完全養殖のコスト激減を支えた3つの技術革新

2016年度に人工シラスウナギ1尾あたり約4万円だった生産コストは、現在約1800円まで劇的に下がっています。

シラスウナギとは?

卵から孵化したウナギの赤ちゃん(レプトセファルス)が成長し、海から川へ上がってくる手前で透明な体になった状態の稚魚を「シラスウナギ」と呼びます。

日本の養殖業者が養殖池(ビニールハウス内の水槽など)に入れて育てているのは、基本的にはこの「ニホンウナギのシラスウナギ」です。

このブレイクスルーの背景には、主に飼育環境とエサに関する3つの技術革新があります。

  • 飼育水槽の大型化と形状の工夫: 初期は小規模な水槽で手作業に近い飼育を行っていましたが、水流を精密にコントロールできる大型の円形水槽が開発されました。これにより1回あたりに飼育できる稚魚(シラスウナギ)の数が桁違いに増え、大量生産によるコスト削減(スケールメリット)が可能になりました。
  • 初期餌料の改良と自動化: 生まれたばかりのウナギの赤ちゃんが食べる「アブラツノザメの卵の黄身」をベースにしたペーストは、非常に高価で水質を汚しやすいのが難点でした。近年ではより安価な大豆などの代替原料の配合見直しが進み、自動給餌システムの導入によって材料費と人件費が大幅に削減されました。
  • 生存率の劇的な向上: かつては卵から孵化させてシラスウナギまで育つ確率が数パーセント未満と極めて低い状態でした。しかし、水温、水質、光の当て方などの管理技術をミリ単位で最適化した結果、生存率が跳ね上がり、投入したコストに対する収穫量が大幅に増加しました。

1800円まで下がったとはいえ、天然のシラスウナギの取引価格(1尾あたり約500円〜600円前後、年により変動)と比較すると、まだ3〜4倍ほどのコストがかかっています。

水産庁はこれをさらに「1000円以下(最終目標は800円以下)」に抑えることを目指し、民間の水産会社への技術移転と商業化の実証を急いでいます。


成魚にするまでのコストの現状(まだまだお金がかかる理由)

1尾1800円まで下がったのは、あくまで卵からシラスウナギの段階まで育てるコストです。ここから私たちがお店で食べる「成魚(蒲焼きサイズ)」にするには、さらに以下のようなコストが上乗せされます。

  • 莫大な燃料費(電気・ガス代): ウナギは温かい水を好むため、日本の養殖場ではボイラーなどを使って水温を常に25度〜30度前後に保ち続ける必要があります。特に冬場の燃料費は養殖経営の大きな負担になっています。
  • エサ代の高騰: シラスウナギから成魚になるまで、毎日大量の配合飼料(主に魚粉)を与えます。近年、世界的な魚粉価格の高騰や円安の影響で、エサ代自体がかなり値上がりしています。
  • 人件費と設備維持費: 水質の管理、病気の予防、ウナギの成長に合わせた選別作業など、成魚になるまでの約半年〜1年半の間、毎日24時間体制での管理が必要なため、管理コストがかかり続けます。

現在、天然のシラスウナギを仕入れて成魚まで育てる通常の養殖でも、出荷時の卸売価格は1尾あたり「1500円〜2500円前後(時期やサイズによる)」が多いです。

もしここに、人工シラスウナギの生産コスト「1800円」がそのまま上乗せされてしまうと、成魚になったときには1尾3000円〜4000円以上(お店で食べると5000円〜6000円以上)という超高級品になってしまいます。

だからこそ、水産庁や研究機関は、シラスウナギの生産コストを「1800円」からさらに引き下げて、天然ものと同等以下の「1000円以下(最終目標は800円以下)」にすることを目指して開発を急いでいると言えます。


食感が極めて優れている「メス」を安定して育てることに成功

オスは大きく育てようとすると身や皮が硬くなってしまいますが、メスは大きく育っても身がふっくらと柔らかいままという最大の特徴があります。

  • なぜ養殖ウナギは「オス」ばかりになるのか?: ウナギは生まれたときは性別が決まっておらず、成長する過程の環境によってオスメスが変化する不思議な魚です。通常の養殖場は「水温が高い」「狭い水槽での過密飼育」といった環境ストレスがかかるため、放っておくと9割以上がオスになってしまう性質があります。
  • どうやって「メス」にするのか?: 愛知県の水産試験場などが開発した安全な技術が使われています。女性ホルモンと似た働きをする大豆由来の成分「大豆イソフラボン(ゲニステイン)」をシラスウナギの時期に一定割合でエサに混ぜて与えることで、本来ならオスになるはずのウナギの9割以上を安心・安全にメスへと誘導することに成功しました。

オスは秋以降に食欲が落ちて味が落ちる傾向がありますが、メスは寒くなってもエサをしっかり食べるため、年間を通じて高い品質をキープできます。

味覚センサーなどの分析によると、メスはうま味の元となるアミノ酸(グルタミン酸など)が豊富です。さらに、ウナギ特有の苦味や泥臭さといった雑味が少ないことも科学的に証明されています。


養殖技術の発展は、輸出と国際競争において大きくプラス

日本のウナギ産業は現在「いつ輸入がストップしてもおかしくない」という綱渡りの状態にあります。

完全養殖の技術が上がれば、これが攻守逆転の強力なカードになります。

  • ワシントン条約リスクを下げ、輸出の説得力を高める: ニホンウナギは絶滅危惧種に指定されており、国際取引の規制圧力が強まっています。しかし、天然資源に一切頼らない「完全養殖ウナギ」であれば、国際的な批判を受けるリスクが減ります。
  • アジア圏で空前の日本式蒲焼きブーム: 中国、韓国、台湾、ベトナムなどでも、日本式のうな重や蒲焼きは高級日本食として存在感を増しています。日本の完全養殖が量産化されれば、本場・日本の高品質で安全なウナギとして、これらアジアの富裕層向けに高値で輸出するビジネスチャンスが生まれます。
  • 高級志向の欧米市場への進出: ヨーロッパやアメリカにもウナギを食べる伝統文化はありますが、現地種のウナギは国際取引が厳しく制限されています。そこに日本のふっくらとした蒲焼きを、寿司に続く新たな高級日本食ブランドとして欧米の高級料理界へ売り出すことで、高い利益率が見込めます。

完全養殖の技術流出と中国の動向

日本が誇る「完全養殖」の技術がさらに進めば、国内外のウナギ市場の勢力図がガラリと変わる可能性があります。

しかし、中国もまたウナギの完全養殖技術の開発を進めています。

  • 中国による猛追と警戒感の高まり: ウナギの完全養殖は日本だけの独壇場ではなくなりつつあります。世界最大のウナギ生産国である中国も、国を挙げて完全養殖技術の開発に巨額の投資を行っており、実験室レベルでの孵化や初期飼育の成功報告が相次いでいます。日本がコストダウンに成功して商業化すれば中国の養殖業界は大打撃を受けるため、中国側も日本の動向を強く警戒し研究を急いでいます。
  • 技術流出対策と防衛策の重要性: 水産庁や国内の研究機関は、特許の取得やノウハウのブラックボックス化(企業秘密としての管理)を進めています。特に「初期のエサの正確な配合」や「水流の微細なコントロール」はトップシークレットです。過去に日本のイチゴやシャインマスカットの優良品種が海外に流出してしまった苦い経験を踏まえ、水産業界でも技術者の引き抜きや共同研究を名目にしたノウハウ流出に対する徹底的な防衛策が求められています。

世界のウナギ生産量の約7割以上を中国が占めています。

中国ではもともと薬膳料理やスープの具材としてウナギ(鰻魚)を食べる文化がありましたが、近年では日本向けの輸出だけでなく、中国国内の経済成長に伴って「日本式の蒲焼き」を提供するチェーン店が増え、国内消費量が急増しています。


まとめ:天然資源に頼らない持続可能なウナギ供給国へ

水産庁は、国を挙げてこの完全養殖ウナギの商業化を後押ししており、2050年までに養殖場に入れる稚魚を100%完全養殖(人工種苗)に切り替える目標を掲げています。

これが達成されれば、日本はウナギの「大輸入国」から、天然資源に頼らない持続可能なウナギ供給国へと立場を変えられる可能性があります。輸出まで見据えれば、日本式の蒲焼き文化を支える大きな武器になるでしょう。

日本の技術がコストの壁を破り、世界に向けて日本のウナギが羽ばたく日はそう遠くないかもしれません。

参考:

水産庁|ウナギ種苗の商業化に向けた大量生産システムの実証事業 PDF

共立製薬 畜産ナビ|食味に優れた大型メスウナギ生産技術の確立

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